ちろうのレイブル日記

本当によい教育を考えるためのブログです

姫乃たま「職業としての地下アイドル」を読んだ

地下アイドル兼ライターとしても活躍している姫乃たまさんの新書「職業としての地下アイドル」が出版されたので、早速買ってきて読みました。

職業としての地下アイドル (朝日新書)

職業としての地下アイドル (朝日新書)


「職業としての〜」シリーズで言うと、僕が真っ先に思いついたのが村上春樹氏の「職業としての小説家」でしたが、調べてみたらこのタイトルはいろいろあるんですね。マックスウェーバーの「職業としての学問」「職業としての政治」とか。

姫乃たまさんは、僕はわりと好きでかねてからトークイベントなどにも足を運んでいます(ちなみに僕の前回の同人誌「本当によい教育を実現するための覚書」の中の最後の章で、理想的な地下アイドルのあり方として、仮面女子:桜雪ちゃんとともに姫乃たまさんをガッツリ取り上げています。その文章も今度公開しようかな)。

姫乃たまさんは、怪しくも理解されにくい、わりと新しい文化であるところの「地下アイドル」というものについて、自身が現役の地下アイドルとして実践しつつ世のなかに発信している人です。流行りのポップカルチャーの一つとして地下アイドルを語る人もいますが、どうしても現場感が欠けてしまったり、実情を捉えそこねたりしてしまうものですが(そもそも語る人自体が極めて少ないのですが)、姫乃さんの場合は自身がその当事者だけあって、説得力があります。現役アイドル、アイドルヲタクへのアンケート調査をもとに分析を加えているパートでは、社会学の本を読んでいるかのようです。宮台真司先生の帯文がキラリと光ります。

アイドル本人や現場のファン達に対して、多様なインタビューを敢行し、分析しています。地下アイドル本人達はどのような思いでアイドルを始めたか、現状に不満があるか、など。そしてまた一つ一つ、一般の若者達との比較を並べることによって、アイドルとの差異をあぶり出そうとしている。これはここでしか読めないものだと思います。アイドルを志すような女の子は、自己肯定感が高かったのか、低かったのか。いじめられていたか、いなかったか。スクールカーストのどこにいると認識していたか。両親との関係は。これらはとても興味深い質問設定です。

一つだけネタバレをするならば、地下アイドルの子は、一般の人に比べて、両親から愛されていると感じている率が高かったと言うこと。身近な両親からの承認が不足しているからアイドルになるのではなく、逆に愛情をたっぷり受けて育ったからこそ、その延長で自然とアイドルを志してしまうのではないか。少なくとも僕は、両親との関係が悪いアイドルより、生誕公演に家族親族がみんなで来てしまうような、皆に愛されているアイドルが好きです。

そして本書は、「地下アイドル」という掴みどころのない(生存戦略がはっきりしていない?)世界を生きる彼女自身の成長物語としても読めます。

姫乃さん自身が壮絶ないじめを体験していたり、地下アイドル活動が軌道に乗ってきても、依頼される出演を全て受けていたらパンクしてしまって病んだり、地下アイドルをいったん辞めて東京から遠く離れたりと、いろんなものを乗り越えて、今の活動に至っていると言うことがわかります。

本書は地下アイドルの世界を語りながら、良質な自己啓発書としても本質をズバズバと突いています。現役アイドルがもし悩みがあったりうまくいかないと思っていたらその処方箋を示しているともいえるでしょう。現在の地下アイドルの世界に多少なりとも興味がある人ならば、必読の本です。