ちろうのレイブル日記

本当によい教育を考えるためのブログです

田中秀臣先生と「ご当地アイドルの経済学」

現在、上武大学でも教鞭をとっている、経済学者でもありアイドルヲタクの田中秀臣先生の著書「ご当地アイドルの経済学」について。田中先生には僕の同人誌に過去2回も寄稿していただいたり、トークイベントに呼んでいただいたりして、お世話になっている。最初のきっかけは、僕の同人誌指原莉乃に会いにいく」Twitterを経由して手に取ってくれたことだ。その後「アイドル〈ヲタ〉になる方法」では「裕也とさっしー:まだ世界が定義をしらないふたり」という論考を寄稿してくれた。

記事を書いてもらったあと、お会いする機会がなかったが、初めて顔を合わせたのが2014年の池袋西口公園の肉汁ガールズの現場だったような記憶がある。その後パームスで再会し、あとはPIPの現場でお会いすることが多かった。田中先生といえば何といってもそのフットワークの軽快さと、ブログ、Twitter等でのアウトプットの多さが目を引く。50代という年齢を感じさせないそのバイタリティは一体どこから出てくるのかと驚かされる(いつ寝ているんだ?w)。それは本書「ご当地アイドルの経済学」の中でも遺憾なく発揮されている。

NGT48の劇場がある新潟に飛び、ノトフ氏、ピストル氏が運営する気鋭のライブ会場「東京アイドル劇場」にも足を運ぶ。先述のようにPARMSにも足を運んでいるし、昨今のアイドルが活動しているライブ会場のほとんどに既に訪れているのではないだろうか。NGT48の北原里英との対談の他、現役のローカルアイドルとして、はちきんガールズ、WHY@DOLL、まなみのりさへの直接取材。またBABYMETAL、丸山夏鈴、PIPに言及するなど、その対象は幅広い。そして九州で活動するQunQunの活動を元に、日本のローカルアイドルを含んだアイドル市場の規模を推計するところが経済学者の本領発揮といったところだ。そしてここで出てくる試算が大きいと見るか小さいと見るかはさておき、その大部分がアイドルに隣接して彼女たちをビジネスの対象とする人や企業に入ってしまい、アイドル本人の手に残ることはほとんどないと指摘する。これは従来の大手芸能事務所が展開するアイドルビジネスから、ガラパゴス的に変化した日本のアイドル市場をとりまく大きな問題だろう(これを解決しようとする試みが濱野智史さんが手がけたPIPだった)。ではこれからの地方アイドルはどうあるべきかということの提案もあり、全篇を通して地方再生への希望と愛が貫かれている。


こんなふうにアイドル界について精力的に発信されている田中秀臣先生ですが、僕が2015年8月に作った同人誌「仮面女子の研究☆」では「仮面女子はなぜ「嫌われる」のか?」という論考を寄稿してくれた。これはゲーム理論を用いながら、地下アイドル運営とアイドルのあり方を考察している他ではめったに見られないものになっています。僕はこの文章で「パレート効率」や「ナッシュ均衡」という言葉を勉強しました。そして、本書「ご当地アイドルの経済学」と通じるテーマでもあります。




僕が素人ながら経済学視点から理想的だと感じているのは、やはり仮面女子の運営です。その理由を簡単に挙げるならば


■メジャーデビューをしないという方針

メジャーデビューは広告費などで金がかかるばかりで全く儲からないと聞いたことがある。これがうまく回るのはAKBグループのように50万枚や100万枚売れることが想定される場合だけだろう。そのAKBグループにしたって、イベントとしては経費がかかるばかりの握手会を連発してようやくその人気を維持している。そして世の中はいい加減、CDはいずれゴミになる運命だという現実にもっと向き合ったほうがいい。あらゆるデータがデジタル化するこのご時勢に、CDにアイドルグッズ(物質)としての意味以上のものはないのだ。仮面女子は早くから、メジャーレーベルからCDを出さないということを宣言している。

一点豪華主義

それどころか、2015年の1月にインディーズレーベルでオリコン1位を取って以来、インディーズですらCDを出していない。せいぜいお友達紹介特典として配るためのものを作っている程度だ。これで今のところ「オリコン1位を取った」という実績だけは永遠に残るのだから、うまく投資したものである。
このように、かけるべきところにはしっかりお金をかけている。他にも秋葉原パセラに常設劇場を構えて活動の拠点を構えていることはもちろん、秋葉原駅前電気街口に巨大看板を掲げていることなどが挙げられるだろう。ブランドイメージにダイレクトにつながるものにはしっかりお金をかけているという印象だ。あとパセラのラグジュアリー感も一役買っていると思う。なんだかんだ言ってパセラはすごいよ。

■無駄がない物販

物販が必要最低限なのがいいです。これからの時代、地球の環境やエネルギーのことを考えていかなければならないと思います。ヲタグッズとして一番安易な生写真とかを売っていないところとか本当に推せます。ヲタクは皆チェキを撮りたいので、ダイレクトにチェキ券を売る、これでしょう。チェキを餌に写真やCDを買わせるということをしない。経費もかからないし、資源を無駄遣いすることもない。エコですね。これが地下アイドル界において最も洗練された物販なのだと思います。



ご当地アイドル、地方再生という観点からは少し離れてしまったかもしれませんが、仮面女子のあり方は全国のローカルアイドルも参考にできると思ったので、書いてみました。
見栄を張って本質的でないところにお金をかけて、運営(悪い大人たち)が負債を抱えようが知ったこっちゃないですが、一生懸命身体を張っているアイドルや、真剣に応援しているヲタ達が結局不幸を感じてしまうことがあってはいけないと思います。アイドルは夢や希望、生きる喜び、活力を与える存在ですからね。


ご当地アイドルというムーブメントが起こり始めてしばらく経つが、ついにライブアイドル界の巨人であるAKBグループがその流れに参戦してきた。もちろんこれまでにも姉妹グループを各地方に作ってきたが、今回の新潟は本書の中でも指摘されているとおり、極端に人口の少ない地域だといえる。ここへきてローカルアイドル界は極まったといっていいだろう。それらの挑戦が実を結び地域に根付いていくのか、あるいは廃れていってしまうのか。それが試されるこのタイミングで出版された本書「ご当地アイドルの経済学」は、ぜひ読むべき一冊になっています。皆も読もう。