ちろうのレイブル日記

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桜雪「地下アイドルが1年で東大生になれた!合格する技術」についてのレポ

仮面女子:アリス十番の元東大生アイドル桜雪ちゃんが7月10日に上梓した本「地下アイドルが1年で東大生になれた!合格する技術」を読みました。

この本では桜雪ちゃんが幼少期の様子から、小中学校での経験。地下アイドルの活動を開始する高校編、浪人編、そして東大アイドルに至るまでの道のりと、Z会の講師・根木島氏との対談が収録されています(ちなみにこの対談は、ほぼノーカット版がYoutubeにアップされているww)。

桜雪ちゃんは地元三重県の通っている小学校で合唱団を立ち上げている。これが現在の桜雪ちゃんを形作る原点となっていると言っていいでしょう。そしてまた初出場で県の代表に選ばれるなど、最初の成功体験だった。中学2年で、家庭の事情で東京への引越すことになる。入った学校は東京学芸大学附属小金井中学(偏差値67)。東京の中学では合唱部が弱小で、ただ所属するだけのような状態だった。そこで力を入れたのが、英語の選択クラスで毎年行っていた、英語ミュージカルのコンクールに出ることだった。ここで発声の基礎指導から感情の込め方まで演技指導をした。その結果、見事コンクールで優勝する。学業の方では、25%しかできないと言われる内部進学で、見事合格を果たす。

高校ではNHK東京児童合唱団(ユースシンガーズ)に所属。イタリア演奏旅行ではローマ法王の前で合唱披露、ミュージックステーションNHKなど各種テレビ番組での合唱披露など、様々な経験を積んでいます。こういうところで、将来舞台に立つための度胸が培われたのでしょう。高校2年の3月で合唱団の活動を終えると、音楽活動へのモチベーションを抱えたまま、受験シーズンに入っていく。ここから東大合格に向けての戦いが幕を開けていくわけです。


そして世の中に溢れている受験体験記と一線を画しているのが、ここで桜雪ちゃんは芸能の道も歩み始めるということです。

普通に考えたら、逆だろ!とツッコミが入るところです。つまり、勉強以外の全ての娯楽を捨てて、邪念も捨てて、寝る間も惜しんで勉強に打ち込むところだろうと。実際にそういう人は世の中にたくさんいると思います。しかし桜雪ちゃんは違った。インターネットでたまたま見つけたタレント募集の広告を見て、応募する。それが、元々音楽事務所をやっていて、これからタレントを募集して育てていきたいというタイミングのアリスプロジェクトだったということが、運命的という他ない。

桜雪ちゃんも素人なら、アリスプロジェクトも全く無名の事務所。だからこそ動き出した奇跡。普通に考えて「東大一直線娘」なんてただのネットに溢れているブログネタです。掃いて捨てられる運命です。そりゃ叩かれてしかるべきです。でも実際は、雪ちゃんも事務所も本気で、現実のものにした。これは驚くべきことです。努力の勝利ですね。今、さまざまなバラエティ番組(「さんま御殿」「Qさま」等々)に、東大生アイドルとして出演を重ねていることが、それを証明しています。


これってまさに現代的というか、21世紀的あるいは2010年代という時代を表していると思う。今は2足3足のわらじを履く時代だからだ。生まれてこの方これ一本という職人的な生き方も賞賛されるべきものと言えるかもしれないが、今はやりたいことを何でもやったモン勝ちという時代ではないでしょうか。タレントとして一世を風靡する人にそういう人が増えている。古くは本業のマッサージ屋で稼いでいた楽しんごという人がいた(いなくなってしまったけど)。小説家、漫画家、エッセイストがタレントのようにテレビを賑わせ、お笑い芸人が絵を描き小説を書く。バラエティに引っ張りダコの林修先生は現役の予備校講師だし、厚切りジェイソンはIT企業の役員だ。

そういう人が強いのだ。これは資産運用の分野で言われるリスク分散という考えにもつながる。一方がダメになっても、他方で頑張ればいい。それが思い切りの良さにつながってこれまでにない新たな魅力を生み出す。常識にとらわれていないのだ。地下アイドルだって、東京大学に通っていいのである。

特に日本人はトレードオフという考え方に支配されている。それは「一方を追求すれば他方を犠牲にしなければならない」という考え方だ。一つのことに集中するのが美徳とされている。受験生であれば、受験勉強に向けて部活を引退とか、入試が終わるまで恋愛は封印、とかね。でもそれは言い訳であり、他人がそういうことにチャレンジしていれば、失敗を願ったり足を引っ張ろうとする。だから叩かれたりするんだけどね。林修先生が、高校生で「受験のために部活をやめました」と言っている子の成績が伸びたのを見たことないと言っていました。ちなみに僕は高校時代、陸上部に所属していたのですが、受験のために部活を引退という風潮が嫌で(というか受験から逃げるためだったのかもしれない)、周りが8月で引退するなか(田舎の進学校だったもので)、秋まで自主練習を続け、秋の校内マラソン大会でぶっちぎりの優勝をしたという過去があります。それは余談ですが。

だから両立は難しいと一般的には思われている。ましてや「地下アイドル」なんて、将来性もない、社会的にも受験に比べて低く見られがちなものだ。むしろ良識ある人はやるべきではないと言うだろう。でもそれは決してできないことではない。それを現在進行形でやってのけているのが、仮面女子の桜雪ちゃんであり、その記録が本書「地下アイドルが1年で東大生になれた!合格する技術」である。地下アイドル活動と、東大受験・卒業は両立できる。それを証明してしまった。

でもこの桜雪ちゃんがやってのけたことって、実は地下アイドル界にいる人間にとって恐ろしいことだと思うんだけど、皆どう考えているんだろう?だってアリスプロジェクトというほぼ毎日活動している事務所にいて、日本の最高峰の大学である東京大学に入学し、卒業までしちゃったのだから(受験期のアリスプロジェクトでは今ほどの活動頻度ではなかったといえ)。もちろん単位取得のためライブを数回休むことがあったが。ちゃんとした大学って、卒業するのが大変だったりするよ(日本の大学は海外に比べて卒業が楽って叩かれているけどね、それはレベルの高い話でさ。卒論がレポート一枚っていう大学だって存在するんだよ!)。これ以降、半端なレベルでの「学業のため活動自粛」ができなくなるのでは・・・

高校名や大学名すら明かさない自称受験生のアイドルが「受験のため活動休止」とか言ってるのとかもう、、、鼻で笑うレベルですよ。塾に通い詰め、とかね・・
これは僕昔から思っていたんだけどね、受験を理由に活動休止するなら最低限、志望校を明記して欲しい。「東京大学を目指すため」とかね。百歩譲って早慶でも良い。一万歩譲ってMARCHでしょう。そうでなければ何も受験のことなんか匂わさないで「実は、大学決まりました〜」という事後報告か、高卒を貫く、これでしょう。「大学とか行かないし」と割り切っている方がよほど潔い。ふわっ〜っとしたまま「受験頑張って〜!!」っていうのが大嫌いなんです。頑張るようなレベルじゃねえだろ!ってね。それ以前にタレント活動をどれだけ頑張っているのかと小一時間・・。私立の難関高校を受ける中学生アイドルとか、いないものかね。それがあるべき受験生アイドルの姿ダロウ!?

とまあいろいろ荒ぶってしまいましたが、桜雪ちゃんの本書はそういうプレッシャーを与えうるものになっているというのは深読みしすぎでしょうか。


教育ヲタとして、また地方出身者としては、東大を目指すきっかけについてなども興味深かったです。東大を意識したのは、東京の東京学芸大附属中学に入学してからだというんですね。もし桜雪ちゃんがずっと三重県にいたらこの選択はしなかったんじゃないだろうかとか。そこには明確な地方格差があるのではないかとか。考えてしまいますね。
僕もたまにね、浪人覚悟で東大を目指すとかいう選択肢はなかったのかなあと思うわけです。考えもしなかった。東京大学なんて。異世界だと思っていた。まあ僕は名古屋大学にもエントリーできなかった人間ですけどね。


そんなわけで、わりと革命的な一冊になっていると思うので、皆さんもぜひ読んでください。