ちろうのレイブル日記

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【仮面女子の研究☆お蔵出し】いま、「奴レボリューション」を聴き直す(永田雅規論)

皆さん、メリークリスマス。チロウショウジです。2015年も終わろうとしていますが、いかがお過ごしでしょうか。年末の冬のコミケが近づいています。今日は特別に、夏に刊行しました「仮面女子の研究☆」からお蔵出しとして、とっておきの記事を公開したいと思います。アリスプロジェクトの中でも最重要クリエイターの永田雅規氏に関する記事です。



【仮面女子の研究☆お蔵出し】いま、「奴レボリューション」を聴き直す(永田雅規論)

■奴 奴 I need you ヘビー級


「奴レボリューション」というワードを見てピンとくる人は一体どれだけいるだろう。これは2005年に発表された、「A―BOYS」というアキバ系の男7人組による楽曲のタイトルである。作詞・作曲を手がけ、グループのリーダーでもあるのが秋葉薔薇夫(あきはばらお)。あまりにもひねりのない名前である。

音楽シーンにまったく疎い僕だが、なぜかこの曲を知った。今から10年も前の2005年の話である。そしてハマった。「アイドルが近くにいるのにめちゃくちゃ望遠レンズな奴〜」とか「ズボンの丈はつんつるてん ケミカルウォッシュでキメッキメッな奴〜」「赤いモノを見ると“シャア専用ですね”って言う奴〜」「握手会に二度並んで注意される奴〜」などとアキバ系オタクのイタイ様子を延々歌っていくだけの曲なのだが、そのあまりのアホらしさに腹を抱えて笑った。それでいて、この洗練されたメロディラインは何なのだ?サビは「奴 奴 アイラビュー 奴 奴 ごめんなさい 奴 奴 アイニジュー ヘビー級」である。「出会い系の不正請求を支払っちゃう奴〜」は笑えるが、笑えない。


「大好きな曲だった」という記憶を確かに持ちつつ、そのグループのメンバーが一体何者なのかわからないし、後にどうなったのかも知らない。とにかく一時期、大いに笑わせてもらったという記憶だけを残しつつ、本曲「奴レボリューション」も僕の人生における数多ある音楽体験の一つとして、別段その後の人生で思い出されることもなく過ぎ去っていくものとなるはずだった。

そこから10年の時を経て2015年、また改めて聴き直すことになった。そして全く別の感動を味わった。一体何の話かと思われるだろう。


■10年の時を経て

「奴レボリューション」の衝撃から10年。僕はアリスプロジェクトにハマっていた。どこに魅力を感じているかといえば、魅力的なメンバーがたくさんいることもその一つだが、何より日々行われているライブの屋台骨となっている楽曲群のクオリティの高さだ。公演ラストの定番曲「夏だね☆」が代表格だが、一度聴いたら忘れられない中毒性、軽快なラップのカッコよさ、懐かしさを感じさせるようなメロディ。アイドル界の楽曲のクオリティが年々高まっていることはよく言われるが、その中でもアリスプロジェクトのそれは群を抜いている。間違いなく、仮面女子およびアリスプロジェクトのライブの質を格段に高めている不可欠な要素だ。それは別段ファンでもない、あるいはアンチと言えるような人でさえ、「曲はイイんだよな」などと評するほどだ。Youtubeで「メンバー解雇!トッピング☆ガールズ謝罪会見で新事実発覚」という動画をぜひ見て欲しい。メンバーがファンと繋がって事務所解雇になってしまったことを謝罪するという問題作だが、ゲストで呼ばれた吉田豪さんが動画の最後で「こんなデタラメなことばっかやってるのに曲は良いんですよね」と発言している。これは世相を見事に切り取っている発言だと言えるだろう。

それら質の高い楽曲群を次々に量産するのは一体どんな人たちなのか。最もキャッチーに名前を挙げられるのが、『マルモのおきて』の主題歌『マル・マル・モリ・モリ!』の作詞作曲編曲を担当したことで一躍脚光を浴びた宮下浩司氏だ。しかしもちろんアリスプロジェクトが抱える作家は彼だけではない。そのクリエイター陣のウィキペディアを読んでいる中で、僕はその名前を見つけてしまったのだ!

ウィキペディアより引用】
永田雅規(ながた まさき・本名)は、日本のミュージシャン。ロックバンド『MJ』(前身はJINDOU1997〜2005年)のリーダーでラップ、MCを担当。別ユニット『A―BOYS』のリーダー「秋葉薔薇夫」でもある。その他にも別名で活動中。2008年〜アリスプロジェクトのクリエイターとして『アリス十番』『仮面女子』等、楽曲制作・ステージング・演出。


永田雅規氏といえばアリスプロジェクトを代表するクリエイターで、楽曲制作、ステージング、演出のほか、マネージャー、特典会の剥がし、チェキ撮影、ネジ(事務所の犬)の散歩までこなすスタッフの一人でもある(前述の宮下浩司氏とは、JINDOU、MJというユニットで共に活動していた)。もちろんにわかヲタの僕からすれば、その名前は楽曲のクレジットを見るたびに徐々に意識していったに過ぎない。「夏だね☆」「ハピ☆バデ」「大冒険☆」といった神曲たちを手がけているのが永田氏という人物であるらしい。そこで徐々に興味を持ち始め、今回この発見につながったというわけである。アリス十番結成以前の、トッピング☆ガールズの楽曲も手がけていることから、事務所立ち上げ当初から関わっていることがわかる。それもそのはず、公式サイトの「代表作品」に目を向けてみれば、「ホストクラブclub ACQUAのシャンパンコール」とある。この時代から永田氏とせいじ氏は交流があったのだ。

アリスプロジェクトにとって初めてのオリコンウィークリーチャート1位を獲得し、女性インディーズグループとしては史上初という快挙を成し遂げた、まさにアイドル界に新たな歴史を刻んだ楽曲「元気種☆」も永田氏が作曲を担当している。


■ブレない仮面女子サウンド

僕が10年も前に大好きだった「奴レボリューション」が、驚くべきことに今最もハマっているグループの楽曲を多数手がけている永田雅規氏による作品だったのである。この事実に、初めて知った瞬間こそ驚いたが、しかし徐々に納得の気持ちが芽生えてきた。僕が好きな作品が、同じクリエイターによって作られているというのは、むしろ自然なことではないか。僕はもう10年も前から、永田雅規サウンドが好きだったのである!

ここで音楽の知識を用いてその魅力を細かに解説することはできない。あくまでも感覚的な話だが、とにかく彼が紡ぐメロディは美しく感じる。そしてカッコよさの中に感情を揺さぶる何かが確かにあるのだ。それは特に「ハピ☆バデ」のようなメッセージソングで真価を発揮する。僕は、あのメロディに「Happy Birthday心から キミだけに贈るありがとう」という歌詞をイメージするだけでいつでも泣きそうになる(そしてアリス十番のメンバーの表情が思い浮かぶ)。

もちろん「ハピ☆バデ」だけではない。どれも安定して懐かしさと気持ち良さを感じさせるのだ。それがとにかく永田サウンドが好きな理由だった。そんな折、このことを裏付ける記述をサウンド&レコーディングマガジンでのインタビューで見つけた。

売れているアーティストさんってブレてないと思うんです。何を聞いてもそのアーティストだと分かる。ブレて失敗したアーティストって多いですよね?だからマニアックになってはいけない。「仮面女子なんてどれを聞いても同じじゃん?」って言われるくらいの方がいいなって思ってますから、これぞ仮面女子っていうのを貫き通したいと思ってます。

仮面女子のカギを握るサウンドクリエイター、永田雅規〈全編〉
仮面女子のカギを握るサウンドクリエイター、永田雅規<後編>


僕はこのインタビューを読んで、アリスプロジェクトの楽曲群になぜ次から次へと惹かれてしまうのか、その理由が分かった気がした。クリエイターがそのような意識で作品作りをしているからなのだ。まず彼はJ―POPをとことん研究しているのだという。特に90年代、日本中でCDが売れに売れたあの時代に流行った音楽に最大限のリスペクトを払い、今の曲作りに生かしているのだ。その時代に青春時代を過ごした者であれば、これらのサウンドに心踊らずにはいられないだろう。そして今どの楽曲にも「仮面女子らしさ」「アリスらしさ」が感じられるのは、偶然ではなく意識的になされていることだった。

作品を作るたびにガラリと作風を変えたり、ジャンルを変えたりするクリエイターもいるだろう。それは市場に要請されてというよりは、作者本人の自信のなさという側面も少なからずあるのではないか。同じタイプのものばかりでは飽きられてしまうのではないかという不安。あるいは自己満足。そのことを永田氏は、インタビューの中で「ブレ」「マニアック」と表現している。

どんな業界にせよ、超一流のクリエイターは毎回「同じような」作品を世に送り出し続けている。それこそがファンに求められているものだからだ。村上春樹しかり、宮崎駿しかり。J‐POPの世界ではMr.children桑田佳祐小室哲哉などの名前を挙げることができるだろう。本当に強いエンタテインメントは、独自の「色」のようなものを持っている。

永田雅規は、そして仮面女子はその域を目指している。「どれを聞いても同じじゃん?」と言われるその未来にあるのが、最高の賞賛だと知っているからだ。もちろんそれは、高いレベルで作品作りをし続けなければならないという茨の道だ。


■楽曲に仕込まれた一つの特徴

そして永田雅規は、ひと目で彼の楽曲であると分かるある特徴を仕込んでいる。それは彼が作曲を手がけている楽曲のタイトルを列記してみればよい。「夏だね☆」「負けないで☆」「ハピ☆バデ」「全開☆ヒーロー」「MAD‐CROC☆BANKING」「Wohhhh!!!!☆」「最強☆サマー」「大冒険☆」「元気種☆」「マリン☆ロード」「TSUKEMEN☆LOVE」「つけMEN☆極MEN」「TSUKEMEN☆最強」「ギョーから☆NIPPON」。そして2015年7月に初披露された仮面ユニットの新曲がアリス十番「ジャンピン☆ベイベー」、スチームガールズ「星たちよ☆」(黒瀬サラちゃんによる作詞!)、アーマーガールズ「オー☆シャンゼリゼ」。

見事に全て「☆」が付けられていることに気づくだろう。それに倣って、本書は「仮面女子の研究☆」と名付けられている。氏に感謝とリスペクトを込めたつもりだ。



前述の「奴レボリューション」では終盤、「秋葉の未来はA―BOY!A―BOY!」と歌う。秋葉原が文化の中心となり、ヲタクたちがそれを担っていくこと予言しているのだ。AKB48が秋葉原に専用劇場をオープンさせ、今まさに秋葉原ブームを巻き起こす前夜のことである。実際に今、秋葉原は日本で最もエネルギーが渦巻く情報発信地となっており、アリスプロジェクトはその秋葉原に拠点を構えて活動している。これほどまでに予言的な楽曲だったのだ。だからこそ今、改めて「奴レボリューション」を聴き直したいのである。