ハックルさんこと岩崎夏海さんの新著「もしイノ」こと「もし高校野球の女子マネージャーが『ドラッカーのイノベーションと企業家精神』を読んだら」を読んだ。280万部のベストセラー「もしドラ」の発売から6年、満を持して世に出された第二弾ということで、期待も高まっていた。また、12月5日には都内某所にて「もしイノ」出版記念トークショーがあり、そちらにも参加したので、それも関連してのレポなどを書いていく。
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あの「もしドラ」の続編「もしイノ」を発売前に読んでみた
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まずハックルさんはかねてから「もしドラの続編は書かない」と公言していた。それは2作目を書くことは必ずしもメリットばかりではなく、世間の評価のハードルが上がるし、1作目がヒットしたためにもし2作目が失敗に終わったらいよいよ作家生命が絶たれてしまう(一発屋の烙印が確定する)と言うリスクがあるからだ。しかし6年の時を経て、時代や心境の変化とともに(本人は、良くも悪くも世間から忘れ去られているからこそ書けると言っていたが)世に送り出すこととなったようだ。
そのトークショーで語られたことには、「もしドラ」にはそれまでの人生のすべてをつぎ込んだので、それを書き終わった時点で自分自身がすっからかんになってしまった。だからそもそも続編を書けなかったのだと。しかしそれから6年(実際は4年)の間に経験したことや考えたことをつぎ込んだ作品が書けると考え、執筆に取り組んだのだと言う。
僕はブロマガをはじめ、多くの発言をウォッチしているので分かるのだが、確かにもしドラ以降の著書(「まずいラーメン屋はどこへ消えた?」「競争考」)やブロマガで書いている内容をまとめて一本の小説に仕上げたかのような作品だった。それどころか、自分自身を憑依させたようなキャラクターを登場させている。それが主人公である「夢」を野球部のマネージャーに引き込む「真実」というキャラクターだ(たとえば「正しさ」に絶対的な価値を置いている性格、など)。
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どちらかというと分かりやすさを重視した、神話の型に忠実に則っている作品になったという本人の評にもあるように、物語としてはものすごくストレートな展開だった。交渉や説得のテクニックや、ドラッカーが言うイノベーションの勘所を紹介しつつ、選手がゼロの状態から高校野球部を作り上げていくという、現実にはありそうにない小説ならではの状況が、いったいどうなっていくのかとワクワクさせる。
前作の「もしドラ」では序盤の伏線を終盤の試合描写で見事に回収するダイナミズムがあったが、「もしイノ」ではチームのマネジメントとイノベーション、チーム作りに大きな比重が置かれ、試合のシーンは少なめだ。そのぶん、周到な準備に多くのページが割かれている。そこには「破壊的イノベーション」と「圧倒的な勝利=勝者の悲しさ」というものがテーマになっているように思う。
情報化社会が極まって、苛烈な競争に巻き込まれている。そこでは小手先の技術では太刀打ちできない。たゆまぬ努力で少しずつ点数を稼ぐような生き方は美しいが、市場そのものが消失して知らないうちに海に放り出されてしまうような時代だ。そんな中で生き延びていくためには、常に考えることをやめないで、破壊的イノベーションで全く新しい市場を作っていかなければならない。そのようなメッセージを与えてくれる、まさに今の時代に出されるべくして出された作品だと言えるだろう。皆も読もう。
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