ちろうのレイブル日記

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岩崎夏海著「チャボとウサギの事件」を読んだ

http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20120615/1339740651

『チャボとウサギの事件』 (岩崎夏海 著) | 著者インタビュー 小説を読まない人に伝えたい「物語の力」 - 本の話WEB
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ハックルさんこと岩崎夏海氏の「チャボとウサギの事件」を読んだ。現代では失われつつある神話の力を取り戻したいというテーマで書かれた物語だということだ。

まずは微妙な心の葛藤とかをこんなに丁寧に描写するのかと感心した。そして登場人物の中に重要な女の子が登場するのだが、その女の子はとある障害を持っている。

以前ハックル氏は障害者についてのエントリを書いていた。
http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20120503/1336022294
「障害者とは何か?」というのはハックル氏の生来のテーマであると言っている。ぼくも障害者というものをどう考えるべきなのかとかいろいろ考えたりしてて、山本譲司氏の「累犯障害者」という本も読んだりした。

累犯障害者 (新潮文庫)

累犯障害者 (新潮文庫)

そのエントリの中でぼくは感銘を受けた。

まずは「障害者は概ね純粋ではない」「障害者だって劣ってたり優れていたりする」という事実を認める――あるいはそう思うことを自分自身に許すことから、始めてみてはどうだろうか。

人は平等なんかではなく、優れていたり劣っていたりしていて、障害者もまた優れていたり劣っていたりしている。そしてそう思っていいんだと自分を許すことによって楽になったと。また「障害者は概ね純粋」というのは良くないレッテル張りで、障害者だから純粋などというのは相手を分かろうとしていない証拠だという。ぼくも体感として、障害者の中にだって打算的だったり根性のひねくれている人だっていると思う。

だから身近に(例えば学校の同じクラスとかに)障害者(種類にもよるが)がいれば、その人が不便を感じていてぼくが近くにいてすっと手助けできるのであればする。そういうことで良いんだろうなと思った。

とまあこれはぼくがそんなことを考えたという話で、この物語に出てくるその女の子に対して、主人公の男の子がまさにそのような振る舞いをしているのだ。そもそもハックル氏的には、そういう女の子を登場させること自体が、問題提起をしているように感じた。

さらにその女の子が傷つくようなチーム決めの仕方を強いる無神経な体育教師や、露骨な差別発言をする生徒に対してブチギレて、制裁を加える場面も良かった。理解することと差別することは違う。そのようなことを教えている(その後主人公はその事件について葛藤するのだが)。

神話については、科学的根拠はないけどそれを信じることによって救われる、また豊かになるといった話だ。現代ではそのようなものは失われつつあるという。雷がなるのは雷様が雲の上で太鼓を叩いているのだとかそういうこと。ぼくもそういうものは大事だと思う。実際は違うかもしれないがそう思うことによってトータルでプラスになるというのであれば、そこに科学的根拠など必要ない、みたいな(ぼくの好きな言葉に「病は気から」があるのだがこれは神話ですかね?)。これって宗教とも言えるのではないだろうか。

宗教っていうとオ●ム真理教とかカルトとか変なイメージがついてしまっているけどてもともと人々に心の拠り所を与える高尚なものだと思う。また資本主義経済と結びつきがちだからとくにイメージが悪い。でも世の中の物事の大半って宗教だよね。そういうことを理解するのは大事だよなーと漠然と思っている。(だからぼくは例えばAKB48を「AKBとか宗教なのにハマってる奴プゲラ」とか言ってる人は好きなものとかないのかなーと思う。AKBのメンバーには彼氏等いないのです。あと岡田斗司夫氏は「ぼくたちの洗脳社会」でお互いに影響を与えあう社会になるとか、お互いに洗脳し合う社会になると言っていた。宗教と洗脳は違うかもしれないが)

そうした神話の大切さを説きつつ、物語の中でメンターが「大人であるとはどういうことか」とか、「人とうまく付き合うために必要なこと」とか、そういうことを丁寧に教えてくれる。小説を読むというのは登場人物を通してこういうことを学べるので、たくさん小説を読むということはその分だけ豊かになれるということなのだと思う。ぼくはこれまでほとんど小説とか読まずに生きてきてしまったので反省しきりだな。いやあ傑作でした。

あと、とある小説家が出てくるのだが、その描写が超皮肉たっぷりのいかにも岩崎夏海イズムが満載で、ハックルファンであれば「アアアーーーーーッ!」と思わず叫びたくなってしまうような切れ味だ。皆も読もう。

チャボとウサギの事件

チャボとウサギの事件