ちろうのレイブル日記

本当によい教育を考えるためのブログです

ちょっとお笑い養成所に通ってみました

もう本当に5年も前の話になってしまい恐縮なのですが、せっかくなんで記録しておこうと思いまして。お笑いの養成所と言えば吉本のNSCなんかが有名ですが、それがどういうところかというのは意外と皆さん知らないと思うのでぼくのしょうもない体験談ですがお付き合いください。40万円も(親が)払った学費も、こうして体験談として記録することで少しでも還元することができるのではないかと思います。


ぼくはワタナベエンターテインメントが主催する養成所、「ワタナベコメディスクール」(WCS)に通っていました。5期生でした。なぜ吉本ではなかったのか。吉本にしてもNSCにしても、あまりにもビッグネームすぎた。いかにもだった。その時から、メジャーなものは避けるという反骨心があったようだ(高校時分、初めて携帯電話を持つ時、まわりの9割がドコモだっただったためあえてジェイフォン(当時)にした、みたいな)。どうしてもこういう時には逆張りをしてしまうのだ。それで事務所はメジャーだけれども養成所の歴史はまだ2年しかないというワタナベエンターテインメントを選んだという次第。あと、当時リスペクトしていたふかわりょうアンガールズナベプロ所属だったというのもあった。つってもそのおふた方は養成所卒ではないんだけどね、何しろ歴史が当時2年しかないのだから。


というわけで、当時はなんの歴史も実績もない養成所ではあったけどそれはどうでもよかったし、時間の問題だろうと思っていた。だってナベプロですよ!天下のナベプロがそんなクソみたいな仕事をするはずがない。そして予想通りといいますか、ぼくが卒業してもう5年ほどになるけれど、その間にハライチ(1期生)を生み出し、フォーリンラブ(1期生と2期生)を排出し、イモトアヤコ(3期生)を世に送り出した。ちなみにぼくの在籍していた5期生は、2010年R-1ぐらんぷり準決勝進出でおなじみの岩間よいこも擁した。また西村深村や、ソフトアタッチメントといった面々が事務所に所属して頑張っています。ちなみにぼくの一推しは6期卒の笑撃戦隊です。



お笑い養成所とは、もちろんのことですがお笑い芸人になるための養成所です。その傍らにはタレント養成コースとか、作家コースとかあったけど、まあよくわからないのでおいておきます。お笑い芸人を目指そうなどという寝言を言うヤツは、それなりにクラス一番の人気者であるとか、あるいは文化祭で即席のコンビを作ってネタを披露したとか言う経験があるかと思うのですが、ぼくはといいますと、全くのずぶの素人で、どちらかというと大きな声を出すのが苦手で、人前に立つ経験など中学時代に生徒会長をやって全校生徒の前でしゃべらされたくらいのもんでした(自慢じゃないよ)。そんなヤツでも、まあべつに普通に入学して卒業するくらいのことはできます。金さえ払えば。


入学するための試験として、面接と称して学校に呼び出されて15分ほどの面談があります。とはいえこれはネタ披露させられるとか、厳しい質問をぶつけられるというわけではなく、純粋に「おかしなヤツじゃないか」と「ちゃんと金を払えそうか」ということを見ているだけです。まともな受け答えができ、40万円(ワタナベの場合)を支払うプランがしっかりしていれば間違いなく合格です。特に「親が払ってくれます!」というのは一番安心の答えでしょうね。取りっぱぐれがない。ちなみに本当に金がないんだけど熱意だけはあると言う人向けに、新聞配達をしながら寮に入って、月5万ほどの給料をもらいながら生活し、卒業するころ(1年後)には学費を完済!という苦学生コースもあります。



養成所に入ってくるヤツにはいろいろなのがいて、ぼくみたいにもう全くの素人で初めてお笑いやってみます!という人から、すでに他事務所でいろいろやってたけど一念発起してワタナベの養成所へ!というのまでいろいろです。また高校卒業と同時に友だち同志で入学してコンビを組む者もいれば、すでに経験者で元からコンビで入学してくる者もいれば、入学して相方を見つけようとする者(ぼくみたいなヤツ)もいれば、入学してから卒業するまでピンでやっていく者もいれば、誰と組んでもうまくいかず、というか人間的に問題があって結果的に最後までピンでやらざるを得ない者もいれば、いつの間にか蒸発してしまう者もいます。入ってから相方を探そうと言うヤツは意外と多いので、一緒にやるような友だちがいないという人でも大丈夫です。


ネタ見せの授業があり、毎回ネタを披露して講師の人にダメ出しをされる、というのの繰り返しです。ぼくが授業を受けていたのはピーピングトムの桑原さんや、元祖爆笑王さん、BOOMERの伊勢さん、といった面々だった。ちなみに今はぼくが尊敬してやまない岩崎夏海先生が講師をやっていると言うから、運命的なものを感じずには居られなかった。むしろ時期がかぶらなくてよかったよ!とてもじゃないがぼくの恥ずかしい時代なんか見せられたものじゃない。もちろんぼくが岩崎夏海先生のことを知るのは「もしドラ」が有名になってからであり、ただのミーハーなファンにすぎないわけだが。ネタ見せ授業の他には、ダンスの時間や、演技指導や、大道芸の先生を迎えてジャグリングやパントマイムをやらされたりという表現一般、さらに座学もあった。


月一回、学内でオーディションをしてライヴが開催された。基本的には月に一回のそのライヴに出ることがとりあえずの目標だったように思う。そこで良い順位を取ったりすればその月に事務所ライヴに出られたり、先輩や卒業生のライヴに混じって出たりできる。まあそのこと自体にあまり意味はないのだが、事務所の人や先輩に顔を覚えられるというのが重要だったりする。そして1年かけてお笑いの腕を磨き、最後のライヴがそのまま最終審査になっており、そこで事務所所属できるか、できないかが決まる。そして卒業時、そこで事務所所属を決められるのはだいたい1割程度ではないだろうか。50組いれば5組。100組いれば10組。という感じ。ぼくは当然・・所属できず。


とりあえずはここで事務所所属を決めることが一つのゴールとはなるだろう。その選に残ったら大したものだと思う。ここで所属できず、それでもワタナベエンターテインメントにこだわりたいという場合は、毎月行われている「STEP!STEP!STEP!」というオーディションライヴに出て所属を目指すことになる。こちらは観客の投票によって上位3位に入ると☆をGETすることができ、その☆を5つ集めると事務所に所属できるというものだ。ここでもまた厳しい闘いが日々行われているわけだが、このSTEP!に出ることなく事務所所属を決められるというのは、やはりエリートといっても良いだろう。それでもあくまでも所属しただけのこと。むしろそこがスタートラインで、ここから芸人としてのキャリアがようやくスタートすると言うだけのことだ。


お笑い養成所に通うことによって得られるものは。。。とりあえず何もないです。というもの、身も蓋もない話ですが、やっぱりお笑いの世界というのは実力がないとお話にならないからですね。もう本当にこんなこと偉そうに言えた義理じゃないですが、とにかく事実なんだから仕方がない。逆を言えば、実力さえあれば養成所に通うことなく事務所所属でも何でもできるわけです。コメディスクール卒業といっても、学歴にひとつ加えられるわけでもないし、むしろ「若いころに甘い夢を見ていたイタいヤツ」であることの証明でしかないよね。そしてSTEP!ライヴというのは、事前のオーディションさえ受ければコメディスクール卒業じゃなくても出られます。


結論としてぼくが言えることといえば、「本当にお笑いをやりたければ、お笑いの養成所には行く必要ないよね」ということです(吉本とかは養成所を卒業しないと所属できないみたいなのがあるのかも知れんが!)。学費を払って1年間かけて得た結論がこれというのは本当に悲しいけど受け入れるしかない。それでも、養成所に入ったほうが良いかもしれない人がいるとすれば、


・本当に素人で何から手をつけて良いかわからなくて、人脈も何もなくて、それでもお笑いを始めたくて、潤沢なお金がある人
・学校のようなシステムで先生に教えられたり期限を決められたりしないと自分はできないという意志が弱すぎるダメな人
・お金だけは潤沢にあって使いたい放題な人
・就職したくないけど社会にも出たくないモラトリアムな人、それが親に対する口実にもなり上手くいけば学費も払ってもらえそうで、本当はお笑いとかどうでも良くて空き時間に小説でも書いていたい人


くらいでしょうかねえ。
とはいえ全然無駄というわけではないんですよ。例えば卒業後にSTEP!ライヴに出続けていれば、卒業生枠でちょっとしたオーディションに呼んでもらったりとか、やはり早い段階で先輩芸人に顔を覚えてもらったりとか、実際に活躍している芸人の手伝いをしに行っていろいろな人脈ができるとか。。。果たしてそれらに1年間という時間と40万円の価値があるのか。それは本当にその人次第と言わざるを得ない。そしてさらに魅力があるとすれば、実際に卒業生の中にブレイクした芸人がいると言う事実ですよね(当時はなかったけど)。これが非常にニクい!


これは実際に岩崎夏海先生が言っていたことなのですが、5/1000という数字があるのです。ワタナベコメディスクールを卒業して、いったい何人の人間がお笑い芸人として成功できているのだろうか。それが5/1000だと言うのです。1000とは、コメディスクールの卒業生(現在16期ぐらいだと思います)。そして5とは先にあげた3組5人です(ハライチ、フォーリンラブ、イモトアヤコ)。ここまでだろうと。そりゃあ事務所ライヴに毎月出ていたり、DVDを出していたり、芸人界では人がうらやむような活躍をしている人はいますが、世間的に言ったら全然知られていなければ成功しているとは言えない。


単純計算で1/200です。これでもかなり甘い計算だと言わなければならないかもしれません。200人と争ってトップを獲れなければ勝てない。これは非常に難しいと思います。並大抵のことではありません。とてもぼくには無理な話でした。しかし可能性がゼロではないと言うところが、甘い夢を見ている若者にとっては希望の拠り所となってしまうのではないでしょうか。約4年ほど前、ぼくがSTEP!ライヴを見ていたころ、ちょうどフォーリンラブが出ていましたが、圧倒的な差をつけて勝ちあがり、事務所所属を決めていました。そういう人が成功を勝ち取るのです。STEP!では過去何組も事務所所属を決めましたが、フォーリンラブほどブレイクした芸人はおらず、事務所所属を決めたは良いものの事務所ライヴに一度も出ることなくSTEP!に舞い戻ってきたというツワモノもいました。それぐらい厳しいです。そこへきて、先月より今月のほうが票数が多かったとか、先月はライヴに出られなかったけど、今月は出られた!と言っているようなレヴェルだと、、、もうお話にならないという感じですよね。ぼくがそうでしたから。それは成功には程遠いということになると思います。それでも200人中のトップを獲る自信がある人は、お笑いの養成所に入ってみるのも良いかもしれません(とはいえそんな実力がある人は養成所に入らなくても成功するのだとは思いますが)。