ちろうのレイブル日記

本当によい教育を考えるためのブログです

教育に携わっている者なら一も二もなく『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界トップ大学から注目されるようになったのか』(著:日野田直彦)を読まなければならないだろう

『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界トップ大学から注目されるようになったのか』(著:日野田直彦)という本を読んだ。大阪府箕面高等学校というところが舞台。著者の日野田直彦氏は、帰国子女、同志社大学卒業後、馬渕教室に入社。学習塾の有名どころですね。ここで実績を積んで、奈良学園登美ケ丘中学・高校の立ち上げに関わった方だそうです。

なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか! ?

なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか! ?

当時36歳で最年少校長として赴任して、一気に改革を勧め、在任4年で偏差値50(地域で4番手)の公立高校から、海外大学に36名も合格したという。

その辺の地方の公立高校から海外の大学なんて、普通にやってたら1人だって行きませんよ。どう考えても。これは相当な改革をしたに違いない、と思われるわけです。その結果、平成30年度、大阪府内で出願人数が1位になったとのことです。


海外に打って出て、グローバルに活躍できる人間。
それは、英語が話せてコミュニケーションが出来るってことではないんですね。

「日本では6年間(大学を入れれば10年間)英語を勉強しても、ろくに話せない。
英語で話せても、議論ができない。自分の意見が言えない。」
なんていうことが言われます。これは本当にそうですね。高いレベルにも低いレベルにおいても問題はあるでしょう。ハッキリ言って思想や歴史的教養、科学や心理学やら人類史、まあそんな深いレベルではなくてもいいんですが、ぜんぜんモノを知らない人間が、自分の日本語の語彙にもない言葉の英単語を覚えさせられているのとかもう悲劇でしかないんですけど。そういうところでガチャガチャやってる高校生がボリュームゾーンなんじゃないですか、なんだかんだ言って。だって大学受験の英語って難しいもん。

あとやっぱり外国語を習得するっていうのは難しい。母語と違うんだから簡単にはいかない。まして日本に住んでいると、英語を身につけないと生きていけないという危機感がないから、学習が苦手な(学習障害とか)子供にとっては地獄でしかない。公教育で国民全員に英語を勉強させるってのも無理があるのでは。英語なんか言語なんだから勉強じゃないでしょ。せいぜいカタカナ語が理解できて便利、ってくらいかね。ただし世界に打って出るなら必須なツール、ということです。


だから英語を一生懸命勉強しようとか、早いうちから(幼児期から)英語に慣れようとか、そういうことじゃないんですよね。これこそ薄っぺらのペラッペらの(英語)教育論ですよ(正直、小学校から英語が正式な科目になるとか、不安でしかないのですが・・)。

それよりも先に、英語で何を伝えるかという中身の部分と、相手が英国人だろうがアメリカ人だろうが中国人だろうがインド人だろうが関係なく、ガシガシいけるかというマインドを身につけることでしょう。それは慣れでもあるし、自尊心、自信、自己肯定感と言ってもいい。いろんな考えを許容、共感するというマインド。

自分の意見を言ってもいい、分からないことは聞いてもいい、もっとわかりやすく説明してくれと。人格否定することなくガシガシ意見をぶつけていく、腹を割って話せる、プレゼンのなかで質問する、そういうマインドを身につけることが、何よりも優先されるべきです。


これを本書ではマインドセットと言っている。実にいい言葉です。
僕も「マインドセット」と「ブレイクスルー」がすごく好きな言葉だ。

本書の取り組みは、この「マインドセット」を徹底的に求めながら、英語に関するレベルの高い負荷をかけていく。あくまでもマインドセットが先です。そうでないとこれは効果が著しく落ちてしまう。

僕もグローバルな人間を教育機関で育てていくにはそういう場所しかないだろうと思っていたから、それが大阪の公立高校で実際にやっているところがあると知って、衝撃を受けました。言うは易し(僕のことですね)。これを実践しているんだから恐れ入る。



■やっていること抜粋(ネタバレ注意)
ベルリッツと手を組んで、土曜特別講座(1年で14回?)
夏にボストンで2週間、短期留学に行ってアントレプレナーシップを学ぶ。
冬には海外大学生を呼んで、リベラルアーツのワークショップ、プレゼン合宿。
様々な専攻、地域、民族、思想的背景の大学生を呼ぶ。そこで人脈ができたりする(ワン海外大学受験時のコネになるかも?)。

壁一面にホワイトボードを導入。
職員室を大改造。席が決まっていないフリーアドレス
全ての会議を公開。オープンに。
補習、テスト対策をゼロに。
教員は無駄な仕事を減らして、早く帰るように。
定期テストマークシート式にして、採点を効率化(これは画期的すぎる!)
図書館を改造。机と椅子を撤去。前も後ろもない、ワークショップやプレゼンテーションができる空間。

【メモ】
「会社を作りたい」「ビジネスをしたい」と言っているのは愚かな人間。まずは「隣人の問題解決をしろ」。

「どういう会社に就職するのが良いですか?」――「ママの知っている会社では働くな」



元グーグル・村上憲郎氏を呼んだ講演会、これを教員と生徒は無料で参加できるようにしたところ、来たのが教員が65人中20人。生徒が1200人中150人。保護者50人。それでベンチャー企業の社長が100人来た(さすがに有料?)というのが面白かった。


こんな機会があったら、普通はマストで参加でしょう。よっぽどベンチャー企業の社長の方が興味を持っている。興味っていうか、人間力とか、向上心とか、もっというとより良く生きようとするっていう姿勢そのもの。よい人生を掴み取るという意志がまるでないんですね。


こういうの聞きたい、聴いて自分の成長に繋げたいって思うかどうかって大きな試金石になると思うんだけど。仮に、元グーグルの人が何者かよく知らんかったとしても。これを企画した校長は絶対に何度もプレゼンしただろう。「なんやよう分からん、すごい人らしいから見ておくか」くらいのモチベすらもなかったのか。

教員の参加が3分の1。良い年した大人がこれじゃあね。子供に背中で示すこともできない。でもこれが現実でしょ。


本書はこれだけじゃなくて、ほかにも細かい描写でグイグイ引っ張っていくメッセージがあって、本当に素晴らしいと思った。ぜひご興味がある方は読んでください。


古い業界に入っていって改革を起こす人って、やっぱりそのメインストリームではないところ(ここでは教育学部出て教員免許とって、というルートではないという意味)から来る人なのかなあと改めて思った。学校も組織ですから。リーダーの手腕によって良くも悪くも変わる。校長っていうポジションは、その意味で面白いですね。外部からテコ入れするという道が残されている。ヒラの教員でも、外の人間を引っ張ってきてもいいと思うんですけどね。要するに「教員免許なんか要らねえ」ってことが言いたいんですけど(まあ完全に無くすことはしなくても、もっと簡単に取れるようにすればいいのに)。


そんなわけで、『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界トップ大学から注目されるようになったのか』、オススメです。