ちろうのレイブル日記

本当によい教育を考えるためのブログです

これからは公立中高一貫校の時代なのかもしれない

『塾不要 親子で挑んだ公立中高一貫校受験』(鈴木亮)という本をたまたまブックオフで見つけたので買って読んだ。これが実に良かった。2007年に出版されている本だった。

今は大学受験の進学実績で言えば、一にも二にも私立中高一貫校がメインストリームである。開成・麻布・武蔵の男子御三家桜蔭・女子学院・双葉の女子御三家、なんかが有名ですが、まあ基本的に東京大学の進学者数上位はこの辺が占めているんですね。あるいは国立。筑波大学附属駒場東京学芸大付属、etc。こちらは未だに根強い。それに比べて公立校は後塵を拝している。

かつて公立校が強い時代があった。東京で言うと日比谷、西、戸山、新宿、小石川、といったところですかね。これらが圧倒的な実績を残していた。ところが公立優位時代を凋落させる出来事が起こった。それが学校群制度。優秀な生徒が一部の学校に集まることを避けるために、地域内で分散させる作戦。入試で十分に点数が取れても、入りたいところに入れない。これが完全に裏目に出た。悪しき平等主義。才能を均すとか一番やっちゃいけないことですよね。そんなわけで公立校は完全に求心力を失った。優秀な人間は私立、という空気が確立した。

まあそんな時代がある程度つづいて、その反省を活かして公立復権を目指して動き出したのが公立中高一貫校設立の流れ、ということらしい。高校受験に心労を割かず、前倒し学習で受験演習に余裕を持つことができる。これが中高一貫の強み。それを公立校で実現できる。ある程度の期間を、一貫した価値観の中で教育できるというのはやはり良いのではないだろうか。もちろんそこの教育レベルが高いというのが大前提ですが。

僕はやっぱり漠然と、義務教育から私立ってのが理解できなかったんですよね(ましてや小学校、幼稚園からとか理解不能)。自分の人生がそういうものから無縁だったってのもあると思うんですけど。公立もしくは国立で然るべきだろうと。国立の学校が人気になって入るのが難しいというのはまあ分かる。それにしても、世にある公立中学校の評価の低さはちょっと可哀相だ。とはいえ、学習塾での様子とか見てると、まあ〜。うーん。まあねえ。しょうがない面もあるのかなと。中には優秀な生徒もいるんですけどね。ひどいのはひどい。どうしたってレベルの低いのはいます。生徒にしても先生にしても。

そんな中、公立で、意識が高く優秀な先生と生徒が集まる場所があれば、それはもう最高だろうと思うわけです。前半の中学3年間に関しては授業料は無料。高校からも私立に比べれば安い。これは確かに素晴らしい。それで本書は、2005〜2006年あたり、東京圏で本格的に公立中高一貫校が始動するというタイミングで、たまたま中学受験のシーズンを迎えた著者とその息子2人の、親子受験体験記なんですね。

舞台は東京都千代田区立九段中学校。長男が、本格的に中高一貫化した最初の年に受験。最初、その学校のことを全然知らなかったけど、説明会に行って「これはいいかもしれない」と考えが変わっていく過程とか、すごく良い。とはいえ倍率十倍だし、塾にも行ったことがない。過去問もないから、対策のしようもない。ということで「受かればめっけもん」くらいに構えていたら、本当に受かってしまったと言うんですね。

入ってみたらやはり良い学習環境だった。その瞬間、年子の次男は、次の年の九段中学の入試合格が宿命づけられてしまった、という流れ。これは面白い。もちろん、ポンコツでは当然ながら受からないと思います。もともと帰国子女で、英検二級を持っているという強みもあった。でもなにより、両親の接し方、価値観、子どもの素直さが良いなと思った。

端的に言うと両親が優秀。細かい内容については割愛しますので、ぜひ本書を。

この本によると、特に公立中高一貫校志向が強いのは、優秀な女子をもつ親なのだとか。最近(といっても2007年の話)、男女共学を志向する女子が増えているのだという。従来なら桜蔭、女子学院といった難関校レベルを目指すような層が、公立中高一貫校を目指すようになっている。へえ〜と思った。

男女別がいいのか、共学がいいのか、というのはなかなか答えの出しづらい問題ですよね。僕の現時点での認識では、トップ層は男女別がいいのではないかなと思う。ある意味突出した人たちですから。同性の中にいたほうが雑念に囚われずに一つのことに打ち込めると思う。そして超底辺、教育困難レベルは絶対に男女別にするべき。せめて教室だけでも。まあこれは色々な本を読んで思ったこと。中間層、特にのびのびと、多様性の中で、自由に過ごさせたいと思うなら共学がいいんじゃないかな。それに「公立」と「共学」はよく馴染むような気がする。


この著者は新聞記者だけあって、文章が淡々としていて過不足がない。しかもその中に静かな情熱をたたえている。そして子供の描写も知性的で、まるであだち充漫画の主人公のようなクールさがある(野球少年だし)。好きなことには全力で打ち込み、テレビも見るし漫画も読む。

ハッキリ言って、テレビとか漫画とか情報の宝庫ですからね。そういうところに、きちんと価値付けをする。そして両親が旅行好きで、いろんなところに連れて行く。地域のイベントに積極的に出かける。そこで楽しんでくる子供。関西の自由な空気感もよく感じられる。

新聞記者ってそりゃまあ時事問題というか、世の中の動きの最前線を把握していないと務まらない職業ですから、中学受験する子供の教育者としては最高だ。特殊といえば特殊なのかもしれない。だけど普通の親だってできなくはない。

なんか全てのいいものが詰まっているな〜と感じた。参考になります。
『ビリギャル』も『下克上受験』も良かったし好きだけど、僕は本書『塾不要 親子で挑んだ公立中高一貫校受験』がいちばんしっくりきた。