ちろうのレイブル日記

本当によい教育を考えるためのブログです

新井紀子氏の講演に2日連続でいってきた

2011年からAIが東大の入学試験をパスできるかという「東ロボくんプロジェクト」を立ち上げている新井紀子氏のことは、最近ウォッチし始めました。

どのような研究をされている方かというのは、こちらをご覧になるのが早いでしょう。

新井紀子 TED講演
Can a robot pass a university entrance exam? | Noriko Arai

●11月1日(水)13:30〜14:30
「AIが大学受験を突破する時代の社会変化」in 国際フォーラム

日立が主催する2日間にわたるシンポジウムで、有楽町国際フォーラムにて。1時間の講演。
参加者がほぼ全員スーツで、僕はジーパンにヲタTだったから完全に浮いていた・・・
(次の日の朝にはジャレドタイヤモンド氏の講演があって聴きたかった・・)


●11月2日(木)13:30〜17:00
リーディングスキルフォーラム−AI時代に求められる読解力」in 一橋講堂

こちらは13時30分から17時00分までガッツリと。リーディングスキルテストとはどのようなものか、どのように作成しているか、信頼性はどうか、実践報告などがありました。

例えばこんな問題がある。


「原点と点A(1,1)を通り、x軸と接する円を選べ」


これを4つ図が示されていて選択肢の中から選ぶのだけど、「通る」や「接する」という言葉と、イメージが対応させられるかどうかということが測られてしまうわけですね。僕の実感としても、僕が普段接している中学生のうち、半数近くが読み取れないような気がする。だいたい高校生でも数学の問題を解くときにろくに図を描かないから「大丈夫かよ?」と思う。

そしてその中でもやはり、大学進学実績別の(まあ偏差値ごとの、と言ってもよいでしょう)高校における、リーディングスキルテストの結果は興味深いものでした。リーディングスキルテストは基本的に、答えが文中に書いてあり、「読めばわかる」ことを答えさせている。つまり文章がちゃんと読めているかどうかを測るのだ。

これが「1.東京大学に毎年数十人送り込むような学校」だと0.95(95%)というような正答率を叩き出すのに比べて(読むだけなので当然)、「2.一応大学進学率は100%近いけど国立大学に数十人送り込むレベル」(僕の出身校くらいだな)、「3.たぶん偏差値50前後の高校」、「4.地方の動物園レベル」、という順に、てきめんに数字が下がっていくのです。それは0.50や0.40、もっとも低い数字では0.14なんていうスコアもありました。これ、4択であれば適当に選ぶ(4分の1、0.25、25%)よりも低いです。もうこれは文章を読んでいるとは言えません。まあこのクラスになると、そもそもこのスキルテストを真面目に受けていないということも考えられるのですが。



●東ロボプロジェクトから、なぜリーディングスキルテストなのか


東ロボくんプロジェクトは2011年にスタートし、地方国立大学、有名私立大学に合格するだけの結果は出せた。しかし東京大学に合格するまでには至らなかったということです。とはいえこれはむしろ想定していたことであり、そのことを確かめるためのプロジェクトだったということです。

その新井教授が、今はリーディングテストの開発に取り組んでいる。それは、AIというのは知識を詰め込むこと、計算処理能力においては、人間が足元にも及ばないほどの能力を持っている。現状でもある種のゲーム(将棋や囲碁)においてはすでに人間を凌駕してしまっている。しかし、AIは文章が読めないのだという。

それはこんな例で話していました。
グーグルに「この辺りの美味しいイタリアンは?」と聞けば、すぐに検索をかけて、GPS情報を元に近くの評判の高いイタリア料理店を紹介するだろう。では「この辺りの不味いイタリアン」と聞いたら・・同じ結果を返す。そして「イタリアン以外の店は」と聞いても同じ結果を返すだろう。「以外」という言葉が分からないのだ。

問題はここからだ。つまりAIは一切文章の意味を読み取ってはおらず、文章を読む(読める)ということこそが人間の強みなのだ。ところで世の中の小学生・中学生はちゃんと文章が読めているのだろうか。そして結果は見事に、多くの子供たちが文章に書いてある内容が読めていなかったというのだ。東ロボくんは既に東大模試で偏差値60弱を叩きだしている。もともと知識を詰め込むということでは勝ち目がない中で、読む力も失っているとしたら、AIが世の中の多くの仕事を代替していくときにその人間はどうやって生きていくのだろう。



おそらく公教育に関わっている人なら「子供が驚くほど文章を読んでいない」ということはあまりにも自明だと思う。「読んでいないな」と感じるその根本には、そもそも語彙が備わっていないというのを感じます。もう本当に英単語を覚える以前の問題です。理科も社会も、単語を何かの記号のように捉えているので、覚えられるはずがない(文章中の漢字の量が、国語よりも理科・社会の方が多いというデータがあります)。これはおそらく5歳から10歳くらいのあいだに、文章(一つ一つの言葉)にしっかり向き合うということをしてこなかったからだろうと思います。


しかしそのことにどのように対応していったらいいか、僕にはわからない。少なくとも、週に1回、一コマ70〜90分程度の時間では。もちろんいずれは自分の理想を完全に体現する空間を作りたいと考えていますが(時間無制限でゴリゴリやらせる空間)、今は何も出来ていない。せいぜい、公文式の国語教材がいいんじゃないだろうかという仮説を持っているくらいです。


しかしそのことに真剣に危機感を感じ、本気で研究している人がいるんだと知って、僕は感動いたしました。本当に素晴らしいです。


勉強ができない(テストの点が取れない)って、元をたどると

学校の授業についていけず塾に通う←自分ひとりで勉強ができない←教科書が読めない

ってことなんですよね。新井教授とそのチームは「中学を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすること」を教育の課題として掲げています。中学校の教科書は、内容的に言っても、かなり広範囲に、しっかりした内容を説明しています。中学レベルだと侮るなかれ。これを十分に修めていれば博識と言えるレベルですよ。信じられないと思う方は、一度理科や社会の教科書を開いてみてください。とても面白いです。


そういうわけで、今後もリーディングスキルテストの研究を遠くから応援したいと思います。